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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1018号 判決 1976年11月24日

控訴人(附帯被控訴人) 加藤キシ

<ほか四名>

右五名訴訟代理人弁護士 足立博

被控訴人 野澤勘三郎

被控訴人(附帯控訴人) 本多虎雄

右両名訴訟代理人弁護士 穂積始

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

被控訴人らは各自控訴人加藤キシに対し、金一二九万四八七円、同加藤敏雄、同加藤康男、同加藤恒雄、同羽切淳子に対しそれぞれ金四万二、二四八円及び右各金員に対する昭和四八年三月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

被控訴人本多虎雄の附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分してその一を控訴人らの、その一を被控訴人らの負担とする。附帯控訴の費用は被控訴人本多虎雄の負担とする。

この判決の第一項中控訴人キシに対し金員の支払を命じた部分は同控訴人において各被控訴人につきそれぞれ金二〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。同第一項中その余の控訴人らに金員の支払を命じた部分は仮に執行することができる。

事実

控訴人(附帯被控訴人)(以下「控訴人」という。)ら訴訟代理人は「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人らは各自控訴人加藤キシに対し金一五七万六、三五五円、同加藤敏雄、同加藤康男、同加藤恒雄、同羽切淳子に対し各二七万四、二七二円及び右各金員に対する昭和四八年三月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求め、被控訴人本多虎雄訴訟代理人は、附帯控訴として、「原判決中被控訴人本多の敗訴部分を取消す。控訴人らの被控訴人本多に対する請求を棄却する。附帯控訴費用は控訴人らの負担とする。」

との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

原判決(当事者の主張)第一の二を次のとおり改める。

「二1 被控訴人野澤勘三郎は、当時加害車を保有し自己のためこれを運行の用に供していた。

すなわち、同被控訴人は、野沢モータースの商号で自転車の販売業を営み、その長男野沢重雄には同被控訴人名義の土地建物を自動車整備工場として、ここで野沢モータースの商号を用いて自動車の販売修理の業務にあたらせていた。重雄はその業務にあたり、同被控訴人の営業所と、右整備工場の場所を併記した「野沢モータース」の名刺の使用を許されており、また、同被控訴人は昭和四三年ごろから、自己の実印を重雄に預けて包括的な使用を許し、甘楽郡信用金庫の同被控訴人名義の当座預金口座によって手形、小切手を振出すことをまかせており、本件加害自動車の購入も同被控訴人名義の約束手形をもってなされ、その登録も同被控訴人名義でなされて、同被控訴人はこれを承認していた。

右のような同被控訴人と重雄との身分関係及び営業形態からして、重雄の事業は同被控訴人の事業への依存度が大きく、右両名の事業は協同関係にあり、しかも、同被控訴人が重雄の事業を支配している関係にある。したがって同被控訴人は本件加害車の保有者である。

2 仮に、被控訴人野澤勘三郎が本件加害車の保有者でなく、重雄が保有者であるとするならば、前記1の事実関係からして、同被控訴人は、その自動車修理販売の業務のため重雄を使用する者として、重雄の保有する本件加害車によって、被控訴人本多が加藤今朝吉に加えた損害につき賠償する責任がある。」

≪証拠関係省略≫

理由

当裁判所は、控訴人らの本訴請求は主文第一項に掲げる限度において正当であると認めるものであって、その理由は、次のとおり付加訂正するほか原判決理由の説示と同一であるから、これをここに引用する。

一  原判決理由三の二行目から一七行目までを次のとおり改める。

「≪証拠省略≫を綜合すると、次の事実を認めることができる。

被控訴人野澤勘三郎は、住居地で「愛輪自転車」の商号で自転車販売業を営んでいたが、昭和四二年商号を「野沢モータース」と改め、当時東京から帰って来た長男野沢重雄とともに自転車及び自動二輪車の販売を行うようになり、昭和四四年には富岡市宇田二一番地の四に自己の名義で土地を買い入れ、そこに自動車整備工場を建設し、右重雄は、この工場で自動車の修理販売業を営むに至った。同被控訴人は自己の実印の使用を重雄にまかせ、また自己名義の甘楽信用組合の当座預金口座によって、重雄が自動車修理販売業を営むうえで必要な手形、小切手を振出すことを認めており、重雄は、野沢モータースの商号のもとに営業し、自動車の購入、登録、販売については同被控訴人の名義を使用していた。本件加害車は、重雄が株式会社マツダオート群馬から同被控訴人名義の手形で買い入れ、これを被控訴人本多に売ろうとして同被控訴人に試乗のため貸与中同被控訴人は本件事故を惹起した。事故後の自動車保険の関係の処理は、被控訴人野澤勘三郎の名義によってなされている。

以上の事実関係からみると、被控訴人野澤勘三郎は重雄の営む自動車修理販売業には直接関与していないとはいえ、同被控訴人と重雄の身分関係、自動車修理販売業を開始するに至る経緯、業務遂行の形態からみて、自転車販売と自動車修理販売とは実質的には一つの営業の二つの部門とみてさしつかえなく、したがって同被控訴人も自動車修理販売業の主体の一人とみるべきであって、同被控訴人は、本件加害車の運行供用者であると認められる。

≪証拠省略≫によれば、重雄は昭和四七年分以降被控訴人野澤勘三郎とは別に所得税の確定申告をしていることが認められるが、重雄に所得がある以上、同被控訴人と別に申告するのが当然であって、この事実をもっては、前示認定の同被控訴人と重雄の営業上の関連を否定するものではない。

よって、被控訴人野澤勘三郎は本件事故につき自動車損害賠償保障法第三条の責任を免れることはできない。」

二  原判決理由四(二)七行目「金七二七、九〇九円となる。」の次から一三行目までを次のとおり改める。

「前示のとおり今朝吉は事故当時六八才であって、その平均余命は、当裁判所に顕著な生命表の記載によれば約一一年と認められるところ、右年令の者は一般的に平均余命の二分の一程度は就労が可能とするのが相当であり、今朝吉の健康状態、職務の性質につき特段の事情の認められない本件においては、同人が本件事故に遭遇しなかったならば、なお五年間就労して前示の程度の収入を得ていたものと推認することができる。したがって、その間の得べかりし利益をホフマン式計算法により年毎に年五分の中間利息を控除した現価を算出すると三、一七六、五九五円(727.909×4.364=3.176.595)となり、同人は本件事故による右同額の損害を蒙ったものということができる。」

三  原判決理由四(五)三行目「三、三七六、六六五円」とあるを「三、七七二、八九〇円」に、同四行目ないし五行目「八三一、三二〇円」とあるを「一、〇二九、四三二円」に、同九行目「二、八七〇、一六五円」とあるを「三、二〇六、九五七円」に、同行「七〇六、六二二円」とあるを「八七五、〇一八円」にそれぞれ改める。

四  原判決理由五の六行目「九五三、六九五円となるが」とあるを「一、二九〇、四八七円となり」と、八行目「他の原告らの請」とある部分及び九行目を「それぞれ四二、二四八円となる。」と改める。

よって控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求は、被控訴人ら各自に対し控訴人加藤キシが金一二九万四八七円、その余の控訴人らがそれぞれ金四万二、二四八円の損害賠償請求及び右各金員に対する昭和四八年三月七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、これと異る原判決を取消し、被控訴人本多虎雄の附帯控訴は理由がないから棄却することとし、民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第九三条、第九二条、第八九条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 中川幹郎 尾中俊彦)

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